クラリネットはやさし

 クラリネットの音色はほのぼのとした懐かしい響きがあります。こどもの頃、チンドン屋さんが「美しき天然」のメロディを吹きながら、ドサ回りの演劇の宣伝をしていたのを覚えています。すこし大きくなってからはベニー・グッドマンの演奏する「二人でお茶を」などの曲が耳に残っています。クラリネットは1700年ころに出来た楽器だそうです。  晩年、58歳になったブラームスはクラリネットの名手、ミュールヘルトに出合い、魅了され、クラリネットのための曲を作曲しました。「クラリネット五重奏曲」、「クラリネット三重奏曲」、「クラリネット・ソナタ第一番、第二番」です。哀愁を帯び、諦観に誘われるような曲想が高齢者には馴染みやすく、クラリネットの哀感のあるほの暗い音色に相応しく、聴き惚れてしまします。  3月になってから、腰痛に悩まされているのですが、横になってクラリネットを聴いていると、患部にも優しく響くようで、心地よく過ごせます。最近は、ブラームスの室内楽曲が好みになったようです。    ブラームス「ピアノ、クラリネット、チェロのための三重奏曲」

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世界のゆくえ

 昨年末の毎日新聞の書評蘭、2024年「この3冊」にエマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)が取り上げられていました。このフランスの人口・家族人類学者の本は一昨年に『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』を読んで、家族制度から歴史を観るという視点が斬新で、読後には世界の見え方が一新された気がしました。  『西洋の敗北』は昨年11月に出版されたのですが、1月に米国トランプ大統領が就任し、矢継ぎ早に施策を発表する中で、日々、読んでいると、世界は E.トッドが書いている方向に進んでいるように思えてきます。彼はなぜ「西洋の敗北」が必然なのかを、各国の家族制度、人口動体、人口構成の変化、高等教育を受ける比率などの詳細な分析から導きだしています。そしてロシアは超音速ミサイルが開発できた時点で、ウクライナ侵攻を始めています。  かって米国はWASP(白人、アングロ=サクソン系、プロテスタント信者)を主流とする国でしたが、現在は異なります。オバマ大統領は黒人ですし、バイデンはアイルランド系でカトリック、大統領候補だったハリスはジャマイカ・インド系です。人口構成でもヒスパニック、アジア系、黒人の比率が増え WASPの比率は低下しています。つまり米国社会の基礎であった勤勉で敬虔なプロテスタント精神が衰微しているのです。西洋キリスト教国では本来、土葬だったのが、火葬の率が増えているように、宗教の形骸化が進んでいるそうです。  今や米国は「物」を生産する国ではなくなっており、「金」で金を産みだす…

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リュートを聴きながら

 17世紀のオランダの画家・フェルメールに「窓辺でリュートを弾く女」という絵があります。ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵していますが、絵の具の摩耗が激しく、図版では見づらい絵です。女性がマンドリンを大きくしたような楽器を調弦しているような構図です。  リュートは中央アジア発祥の楽器で、ヨーロッパでは器楽合奏や歌の伴奏に使われ、東へ伝搬されて琵琶になったようです。フェルメールには「ギターを弾く女」という絵もありますので、当時の絵に描かれたようなオランダ家庭では、日常的にリュートやギターを弾いて楽しんでいたのでしょう。  フェルメールより53歳下のバッハには、「リュート組曲」が4曲あります。第3番は「無伴奏チェロ組曲第5番」の編曲で、第4番は「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番」を編曲したものです。リュートで楽しめるように移調したのでしょう。現代ではギターでも演奏されています。  バッハなどの時代様式を示すバロックという言葉は「歪んだ真珠」という意味なのだそうで、ルネサンス様式より情感的ということなのでしょう。フェルメールには「真珠の耳飾りの少女」という絵もあります(捌称「青いターバンの少女」)。真珠の耳飾りの少女が振り返った表情は魅力的で印象に残っている人は多いでしょう(2000年に大阪市立美術館で展示されました)。また絵の少女をモデルにした小説が書かれ、映画にもなりました。                        (wikipediaより)  1881年、修復前の…

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