音楽のゆくえ

 6月だというのに、35°Cとは驚きます。昼寝でもしようとお気に入りの CDをかけます。手持ちの CDなどから好みの唄や曲を PCに取り込んで、自分用のコンピレーション CDを作ってあります。CDはわたしの生活の必需品です。  先日、友人の奥さんが歌好きなので、好みに合いそうな CDを作って差し上げたのですが、家に CDを聴く装置が無く、車にも付いていないので、別の車で聴くとのことでした。今の車は何で音楽をかけるのでしょう?   そういえば何年か前、2人の息子たちに子供時代の写真を DVDと SDカードに取り込んで送ったのですが、2人とも PCにはDVDも SDも見る装置が無いとのことでした。USBメモリーにすればよかったのかな・・・? 何十年か前、友人がカセット・テープを貸してくれた時、我が家にカセットを聴く装置が無く困ったことがあるのを思い出しました。その後、MDというのもありました。なんとも記録媒体はどんどん変わっています。  30年程の間に自然と集まった CDは処分しようにも最近は、買取ってくれる店も少なくなっています。この CDたちはいずれゴミとして処分されるのだろうかと思うと無惨な気持ちになります。書籍はまだ古書店や図書館で形ある物として生き延びる道があるのに、音楽にはどんなメディアが残されているのでしょう?  Amazon などで定額で音楽聴き放題というのが有りますが、何でも聴けるというのは案外味気ないもので、この CDはどこそこで見つけたものとか、今は廃盤で…

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『青い壺』からたち昇る50年前の世界

 家内が不思議そうに「有吉佐和子の『青い壺』という小説が、ベストセラーになってる」といいます。有吉はもう何十年も前に亡くなっています。「今更どうして?」と訊くと、「Eテレの『100分de名著』に取り上げられて話題になった」とのことです。調べてみると『青い壺』は1977年に刊行された連作短篇小説集ですが、テレビで紹介されたのをきっかけに64万部も売れたそうです。  有吉佐和子は和歌山に関連が深く、市内には東京の自宅を移築した「有吉佐和子記念館」というのもあります。50年も前の本がなぜベストセラーになったのか? 読んでみることにしました。  ある陶芸家が偶然に恵まれ良質の青磁の壺を焼く。それが東京の百貨店に並べられる。贈り物にする品として買われる。盗まれたり、東寺の弘法市で売られたり・・・こうして「青い壺」は次々と持ち主が変わり、そこでの出来事が短篇小説になっていきます。定年後の夫、嫁姑問題などがやや冷笑的またはユーモラスにお話に仕立てられています。  ただ50年も前の小説なので、風俗や考え方が現代とはズレており、高齢者は「昔はこんなだったな」と思いますが、若い人には違和感があるかも知れません。買った64万人の年齢構成を知りたいものです。  たとえば、女学校だかの同窓会が京都であり、70歳の女性たちが集まる。多くの参加者が和服で、腰が曲がり、コルセットを装着した人が何人もいます。寝る前には総入れ歯が話題になる。・・・現代の70歳の女性の描写としては違和感があります。  し…

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イギリスの女性作家

 わたしが大学に入った1967年に、『バージニア・ウルフなんかこわくない』というエリザベス・テイラー主演の映画がありました。変わった題だなと思ったせいか、観ていないのに今だに題名が記憶に残っています。  ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)はイギリスの20世紀を代表する女性作家です。日本でいえば明治15年生まれなので谷崎潤一郎の4歳上です。いつの頃だったか『灯台へ』(岩波文庫)という彼女の小説を読み、繊細な感覚的な文章に魅了されました。 (Virginia Woolf Wikipediaより)  1998年、彼女の『ダロウエイ夫人』が映画化されたおり、本屋さんに原作の『ダロウエイ夫人』(丹治愛訳 集英社)が並んでいたので買っておきました。もう27年も経ったのですが、今回読んでみました。  物語はロンドンに住むクラリッサ・ダロウエイの1923年6月のある1日の話です。その日、彼女は自宅でパーティを開きます。そしてこの1日に、過去の出来事が詰まっています。パーティには青春時代に結婚も考えたピーター、同性愛的感情を持っていたサリーなども登場し、過去と現在が交錯されながら、ロンドンの美しい6月の夜が更けていきます。 <「湖のこと、おぼえていらっしゃる?」、ひとつの感情に衝き動かされて、彼女は唐突に言った。その感情は彼女の心臓をつかみ、彼女の喉の筋肉を緊張させ、「湖」と発音したその唇をひきつらせた。いま彼女は、両親にはさまれてアヒルたちにパンくずを投げている子どもだった。と同時に…

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