こころに残る短篇小説
短篇小説は 30分もあれば読めてしまうので、寝る前に読むことがあります。エッセイに近いものから、文字によるスケッチ、奇妙な話、寓話風のものなど風味はいろいろですが、一年もすると、ほとんど内容は忘れてしまいます。覚えているつもりでも再読すると、こんな話だったかなぁと、思い違いに気づきます。
日本のもので記憶に鮮やかに残っているのは、
庄野潤三「プールサイド小景」
開高健「玉、砕ける」
宮本輝「力道山の弟」
三浦哲郎「みのむし」
などです。
そういえば「力道山の弟」は5年ほど前、短篇小説のアンソロジーで読んだのですが、もともとは、なんという本に入っていたのかと調べてみると、1990年出版された短篇集『真夏の犬』の中の一篇で、今は文春文庫になっていました。宮本輝は 40年近く前に一冊読んだことがあるくらいで、あとは映画『泥の河』の原作者という程度の知識しかありません。
舞台は昭和30年代の阪神間の尼崎。駅前に力道山の弟と名乗る香具師がやって来る。
<男は、力道山に生き写しだった。私は、テレビで観た力道山の顔を頭に描きつつ、男を見つめた。男は、自分を取り囲んだ人々の数を確かめてから、煉瓦を空手チョップで割った。>
小学校五年生の私と父、母、父の友人の妻などの世界が、力道山の弟の出現によって軋んでゆく。猥雑な時代を生きる人間の劇が描かれています。
昭和30年代って、そんな時代だったな・・と思い、そう…