食べる話
こんなに面白い本はそんなにないだろうと思えるほど楽しめる本です、嵐山光三郎『文人悪食』(マガジンハウス)。最初が夏目漱石、森鷗外、幸田露伴と続くので、少し重いかなと、うしろから読むことにしました。「あとがき」には <「近代文学史を料理によってたどってみよう」という壮大な構想にたどりついた。>と書いています。
一番最後は三島由紀夫です。 <料理好きの母に育てられた虚弱体質少年は、拒食症的性向になった。「食べろ、食べろ」と言われると、それが強迫観念になって、ますます食べるのが嫌になる。義務として、あたかも、宿題をこなすように食べる。三島氏が誇らし気に、「朝食に四百グラムのビフテキを食べた」と言ったときも、そういった意識の延長があった。おいしいから食べるのではなく、テーマとして食べるのである。>
次が池波正太郎。 <浅草生まれの池波さんは、小学校を卒業すると兜町の株式仲買店の少年社員として働きに出て、・・・(中略)資生堂パーラーには池波少年と同じ年ごろの坊主頭の少年給仕がいた。白い制服に身をかためた少年給仕はぎこちなく注文をきいた。二度目に行ったとき、少年給仕は「マカロニ・グラタンいかがですか ?」とすすめた。三度目は「ミート・コロッケがいいです」とすすめた。池波少年は、すすめられるままの料理を食べた。足かけ三年ほどの間、少年給仕の山田君との交友がつづいた。三年目のクリスマスの晩に池波少年は、岩波文庫の『足ながおじさん』を買って、「プレゼント」と言って渡した。すかさず、山田…