郷土の力士

 大相撲九州場所は相変わらず照ノ富士の強さが目立ちます。兵庫県出身の大関・貴景勝も今場所は調子が良さそうです。大相撲では取り組みの前に、必ず出身地が紹介されます。それだけ郷土の代表という意識が強いのでしょう。  わたしが小学生の昭和 30年代には、鳴門海と成山という郷土・淡路島出身の幕内力士がいて、応援していました。鳴門海は脇を締めた独特の立会いが特徴で、よく真似をして遊んでいました。当時の横綱・鏡里から金星を挙げていました。成山は小結まで昇進しました。  その後、栃錦、若乃花の時代となり、貸本漫画で「若乃花物語」を熱心に読んだ記憶があります。安念山、吊りの若秩父、内掛けの琴ケ濱、吉葉山といった名前が思い出されます。相撲はこどもたちの日常の遊びになっていました。  どういう訳か、痩せっぽちのわたしが学内の相撲大会でクラス代表の一人になったことがあります。まわしを締め土俵に上がりました。低く立って、前まわしを取って頭をつける作戦でしたが、たった瞬間、はたき込まれて一瞬の内に負けました。  中学のころは、大鵬、柏戸の柏鵬時代で、大鵬は「巨人・大鵬・卵焼き」と子供の好きなものの一つに挙げられていました。祖母は大の大鵬ファンでしたが、わたしは痩身の柏戸びいきでした。  大学生のころ読んだ北杜夫『楡家の人々』には体の大きさを恥じる蔵王山という力士が出てきました。実際にも北杜夫の祖父・斎藤紀一は自分の郷里・山形県で最も頭のいい男と最も体のいい男を養子にするとし…

続きを読む

パレットに言葉

  本箱に30年ほどまえ叔父がくれた本が何冊かあります。古本屋でみつけた物のようで、「読んでみたら」という感じだったのでしょう。人に勧められた本は、案外、読まないでそのままになってしまうものです。巣ごもりで読む本がきれたので、それらの一冊を取り出してみました。  野見山暁治(1920-)という画家のエッセイを集めた『絵そらごとノート』(筑摩書房)という本です。先日は小説家の開高健がユトリロについて書いたのを読んだのですが、画家の野見山はユトリロについて・・・  <この飲んだくれの男にとっては、夜、寝ころぶには冷たい石畳の道であり、昼は夜よりも悲しい塀の道が続いているだけだ。ユトリロは、華の都を描きはしなかったが、だからといってパリの裏町を描いたわけではない。/ ユトリロは、自分の生涯住みついたごく小さな界隈だけを見つめて死んだのだ。その見つめる心情の一途(いちず)さが私たちの胸を打つ。>  <よくよく見ると、ヘタクソな絵だ。筆の運びはおそろしく拙く、(中略)これはまぎれもない素人の絵だ。(中略)しかし逆に、このたどたどしさを誰が持ちうるか。> と書いていました。絵画の魅力とは何なのかを気づかせてくれます。<私は若いころ雑誌ではじめてユトリロの風景を見たとき、その垂れこめた空の美しさにひかれた。> とユトリロとの出会いを振り返っています。なんとはない街の景色がひとのこころを捉える秘密が書かれているようです。  パリ在住時の愉快な思い出話も出てきます…

続きを読む

ハイティンクの一枚

 秋が深まり近くの雑木林も黄葉の気配です。来週あたり柿の栽培地に出かけてみようかと思っています。陽光を吸収して結実した富有柿は秋の実りを実感させてくれます。いよいよ今年も終わりだと意識します。  先日の新聞には指揮者のベルナルト・ハイティンクの他界が報じられていました。わたしが音楽を聴くようになった頃から、いつも名前が目についたような人でした。カラヤンやバーンスタインはとっくに居なくなっているのに、息の長い人だと改めて驚きました。彼は1929年生まれですから、1908年生まれのカラヤン、1918年生まれのバーンスタインに比べれば若いのですが、二人がもう 30年以上前に他界しているので、そんな気持ちになるのでしょう。それだけ彼が若くから活躍していたということで、事実、32歳で名門、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者になっています。  ハイティンクをすごいと思ったのは、彼が指揮する、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番(コンセルトヘボウ管弦楽団、1981年録音) を聴いた時です。こんなに悲哀に満ち、かつ美しい音楽があるのかと驚きました。均整が取れ、迫力もある演奏です。才能の結実を感じさせます。  ハイティンクは 90歳近くまで現役だったようですが、指揮者には高齢まで活躍する人が多いようです。1時間以上、立ったまま両腕を振り続けるのは重労働のはずです。また、70歳を過ぎれば高音が聞きづらくなるのが普通です。もっとも、ベートーヴェンは難聴で、聴衆の拍手に気づか…

続きを読む

こころに残る洋楽

 何か読む本はないかと本箱を眺めていると、村上春樹 和田誠『村上ソングズ』(中央公論新社)が目についたので取り出してみました。村上春樹が好みの洋楽の唄を17曲選び、彼の訳した歌詞と原詞を載せ、それらの唄について2頁ずつのエッセイを書いていました。和田誠は装丁と各曲にイラストを描き、彼も好みの唄を2曲訳し、エッセイを付けていました。2007年刊行ですが、読んだ記憶がなく、買ったままになっていたようです。  好みの唄というのは至って個人的なものですが、育ち暮らした時代の影響も大きいと思われます。村上春樹はわたしと同学年なので、同じ時代を過ごした彼がどんな唄を選んでいるのかと目次を眺めてみました。そこに並んでいるのは、題名は知っているが・・という程度のが8曲ありましたが、見たことも聞いたこともないのが目立ちました。  R.E.M. 「人生のイミテーション」  ロッド・マッケン「ジーン」  ビリー・ブラッグス「イングリッド・バーグマンの歌」  クラレンス・カーター「パッチズ」 といった唄が並んでいます。どんな曲なのか想像もつきません。そんな歌手がいたのかと初めて目にする名前が続きます。Wiki.で調べてみると、ロックの殿堂に入っている歌手だったりします。ちなみにビートルズの曲がないのは、レノン=マッカートニーの楽曲歌詞の翻訳が、管理者によって許可されていないからだそうです。  そういえば、わたしでいえば、大人になってから、洋楽に接する機会が減り、時にジャズ・ボ…

続きを読む