歳末にふり返る

 寒波の影響なのか、光回線が切れ、23日からネットと固定電話が繋がらなくなりました。修理を頼もうとNTTにケータイで電話しましたが、AI音声で誘導されたあげく、ショート・メールで「最短で 28日」と一方的に送ってきました。なんとも味気ない対応です。  久しぶりに5日間、ネットのない生活をおくりました。本を読んだり音楽を聴いたりして時間をつぶすのですが、何か物足りない気持ちがします。いつのまにかネットに依存しているのでしょう。  やっと今日はNTTの人が来てくれました。「すぐ直りますよ」と言うことだったのですが、どこが原因か分からず、結局、電柱の光回線を張り替えたそうです。年末には何故か電気製品とか水回りとかが故障して、あわてることが多い気がします。  ネットが繋がりホットしましたが、年も押し迫り、今年1年のことを振り返る気分になります。またひとつ年をとったことだけは確かです。去年に比べ目や耳はあきらかに衰えています。 評論家の川本三郎は < 年を取って唯一いいことは思い出が増えることだろうか。>* と書いていました。そういえば事あるごとに、いろんな思い出が蘇って、しばし物思いにとらわれます。もちろん一方では日々、記憶は失われてもいるのですが・・・。  同書の中で川本三郎は、木下忠司という作曲家のことを書いていました。その人は映画監督の木下惠介の弟で、木下映画のほとんどの音楽をてがけたそうです。『喜びも悲しみも幾歳月』(1957)の主題歌も彼の作曲です。彼は膨大な数の映…

続きを読む

今年の「この3冊」

 年末になると、新聞の書評欄が楽しみです。この一年に出版された本から、書評担当者が "これは” と思った本を選んで発表しています。毎日新聞では、2週間にわたって 35人の評者が3冊ずつ採り上げ、百語ほどの解説を付けています。選ばれている本は重複がありますので、100冊程になります。  毎年、この欄を見ながら、来年はどの本を読もうかと参考にします。また、川本三郎、三浦雅士、荒川洋治、養老孟司といったお気に入りの評者が、どんな本を挙げるのかも楽しみです。また、自分が今年読んで面白かった本を、誰かが推薦していないかという興味もあります。  今年、最も多くの評者に選ばれていた本は、鷲見洋一『編集者ディドロ 仲間と歩く『百科全書』の森』(平凡社)で、4人が採り挙げていました。同書を選んだ評者の一人、文芸評論家の湯川豊は「(前略)『百科全書』とは何か。膨大な資料を駆使してそれを成立させた背景までを書ききっている。(後略)」と述べています。それだけの人に選ばれるからには、文句なしの好著なのでしょうが、約 900頁の大著なので、実物を見ないで取り寄せるのはためらわれます。書店でどんな本か見てみたいものです。  フランス文学者の鹿島茂と元外交官の佐藤優が、エマニュエル・トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上・下』(堀茂樹訳 文藝春秋)を選んでいました。鹿島は「(前略)家族人類学理論の集大成。(中略)人類の歴史が新しい角度から解釈され、未来への展望が披露される。」と書いていま…

続きを読む

映画と音楽の密接な関係

 映画はほとんど観なくなったのですが、先日、ピアニストのアレクサンドル・タローが映画音楽を演奏した CDが出たので取り寄せてみました。CD2枚に 51曲も入っているのですが、聴き覚えのあったのは数曲だけでした。「禁じられた遊び」、「追憶」、「ゴッドファーザー」・・程度。  聴いたことがあると思って、映画の題名をみても知らなかったり、観たことのある映画なのに曲に憶えがなかったりいろいろです。ミシェル・ルグラン、フランシス・レイ、ニーノ・ロータ、エンニオ・モリコーネ、ジョン・ウイリアムズといった作曲者の曲が並んでいます。ただ、ヘンリー・マンシーニの曲が無いのは不思議です。  聴いたことがなくても、いかにも映画の場面を彷彿とさせるような曲ばかりです。CD 1はピアノとオーケストラ、CD2はピアノ・ソロで、数曲はヴァネッサ・パラディなどの歌手が唄っています。  わたしが中学生のとき、初めて一人で映画館で観た映画は『モスラ』でした。ザ・ピーナッツが主題歌を唄っていました。上映の間には美空ひばりの「港町十三番地」が流れていました。  高校生では『ドクトル・ジバゴ』の「ララのテーマ」、『サウンド・オブ・ミュージック』、『 007 ゴールドフィンガー』などを映画館で見聞きしました。  大学生では『ロミオとジュリエット』に感心し、初めてサントラ 盤を買いました。『レット・イット・ビー』というのもありました。  1960年代頃にラジオでよく流れていた映画音楽…

続きを読む

海舟の語ったこと

 勝海舟(1823-99)は赤坂区氷川町に住んでいたので、氷川伯と呼ばれていたそうです。彼が 晩年、新聞や雑誌に載せた談話を吉本襄が自分で聞いたのも含め編集して纏めたのが『氷川清話』*です。海舟の肉声を聞くような面白さがあります。  < おれは今日までに、都合(つごう)二十回ほど敵の襲撃に遭(あ)つたが、現に足に一ヶ所、頭に一ヶ所、脇腹に一ヶ所の疵(きず)が残って居るヨ。>  < 文久三年の三月(中略)宿屋がどこもかしこも塞(ふさが)つて居るので、致し方なしにその夜は市中を歩いてゐたら、ちやうど寺町通りで三人の壮士がいきなりおれの前へ顕(あら)はれて、ものをも言はず切り付けた。驚いておれは後へ避けたところが、おれの側(そば)に居た土州の岡田以蔵(おかだいぞう)が忽(たちま)ち長刀を引き抜いて、一人の壮士を真つ二ツに斬つた。>  映画の中のシーンのようです。岡田以蔵といえば 1969年の映画『人斬り』で勝新太郎が演じていました。田中新兵衛を作家の三島由紀夫が演じ、その切腹シーンが話題になりました。  < 西郷なんぞは、どの位(くらい)ふとつ腹(ぱら)の人だつたかわからないよ。手紙一本で、芝、田町の薩摩屋敷まで、のそのそ談判にやつてくるとは、なかなか今の人では出来ない事だ。(中略)/西郷は庭の方から、古洋服に薩摩風の引つ切り下駄をはいて、例の熊次郎といふ忠僕を従へ、平気な顔で出て来て、これは実に遅刻しまして失礼、と挨拶しながら座敷に通つた。(中略)/さて、いよいよ談判になると、…

続きを読む