ピアノで運命

 午後3時過ぎになると、今日は何を聴こうかと頭を巡らせますが、ベートーヴェンの交響曲はどこか大げさな感じがして、第6番「田園」以外はあまり聴くことがないのですが、リストが交響曲全9曲をピアノ独奏用に編曲したのがあるのを思い出しました。オーケストラで演奏するのを、ピアノ1台、つまり指10本で表現しようというものです。ピアノがあれば自宅で交響曲が演奏できるというわけです。  以前、車のラジオ放送で、そのピアノ演奏版を聴いて興味を持ち、CDを取り寄せていました。今回、久しぶりに第7番、第6番「田園」を聴いてみて、交響曲がまるでピアノ・ソナタのように聞こえるのに驚きました。これなら交響曲も大げさでなく、昼寝しながら楽しめると気持ちよく聴きました。ピアノ演奏はシプリアン・カツァリスです。オーケストラの音をピアノで表現するのですから、リスト編曲ならではの超絶技巧が必要なのでしょうが、ピアニストは難なく演奏しています。ラジオで聞いたとき、番組司会のピアニストが「これ一人で弾いているんですよね」と感嘆していたのを憶えています。  翌日は第5番「運命」をかけてみて、びっくりしました。こんなことが指10本でできるのか! それにオーケストラで聴くよりも刺激的で、興奮させられ、まるでフリー・ジャズの演奏を聴いているような気分になりました。「運命」ってこんなに過激なのかと再認識させられました。リストそしてカツァリス恐るべしと唖然としました。録音したのは1980年代で、カツァリスも編曲を加えているようです。一…

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海岸民族って何?

 しばらくは出かけられないので、旅行記でもと森本哲郎『空の名残り ぼくの日本十六景』(新潮社)を読んでいると、「日本三景(松島、天橋立、安芸の宮島)」について、< おそらく、遠い昔、日本人は頼りない舟で荒波を乗り越え、やっとの思いでこの列島にたどり着いたにちがいない。その間、波に呑まれてどれほどの人たちが海中に消えたか、その苦難のほどは察するに余りある。彼らが、ひたすら夢みたのは島であり、陸地だった。そして舟を寄せることのできる静かな入江に達したとき、まるで楽園を見つけたように安堵の胸をなでおろしたことであろう。彼らが必死でめざした内海の浜、そのイメージがこの三景に結晶しているのではあるまいか。(中略)/ 周囲を海に囲まれながら、日本人はどうして大海へ乗り出して行かなかったのだろう、というぼくの疑問に、いつだったか、山崎正和氏は「日本人は海洋民族じゃない、海岸民族なんですよ」と言って笑った。> とありました。なるほど。  確かに三保の松原、須磨、和歌ノ浦、江ノ島など白砂青松の地はどこにでもあり、日本の典型的な風景のひとつでしょう。白砂青松にこころを寄せる日本人を「海岸民族」とは言い得て妙です。そう言えば浦島太郎も天女の羽衣伝説も砂浜が舞台になっています。  わたしは松島へは行ったことがありません。大学生のころ東北均一周遊券というのを持って 10日ほど東北地方を巡ったのですが、その頃は名所というものには関心がありませんでした。高村光太郎の安達太良山、宮沢賢治の花巻、小岩井牧場、石川啄…

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今年の日本シリーズ

 今年のプロ野球はクライマックス・シリーズ(CS)から日本シリーズにかけては、持病のため入院していましたので、病院での夜の楽しみとなりました。CSは順当にタイガースとバファローズが勝ち、待望の関西決戦となりました。両チームとも監督が変わったとたんに強くなり、監督の力が再認識されました。  まず第1戦で山本由伸がノック・アウトされたのにはびっくりしました。岡田監督がどんな秘策を選手に授けたのか、投げる球種があらかじめ分かったのか? それにしては第6戦でのタイガース14三振も不思議です。単に山本由伸の出来不出来だけのことだったのでしょうか?  バファローズに比べタイガースは機動力で勝っていました。特に1番、2番が出塁すると、何か仕掛けてこないかと警戒させられます。敵ながらMVPになった近本光司選手の活躍は見事でした。彼はわたしと同郷の淡路島出身です。また今やタイガースのエースとなった村上頌樹投手も同郷です。  タイガースで淡路島出身といえば、古くは吉田、三宅と組んだ二塁手・鎌田実選手です。どういう訳か子供のころ、淡路島では南海ホークスのファンが多かった気がします。巨人ファンだったわたしは、ホークス・ファンから巨人は別所を取ったとか、長嶋は南海を裏切って巨人へ行ったなどと聞かされ続けました。  第6戦からは退院して自宅のテレビで観戦しましたが、山本由伸の完投勝利を見て、これはもうバファローズが明日も勝つだろうと思いました。第7戦、今まで投げていなかったタイガース・青柳投手が好…

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音楽療法として

 近々、75歳になるのですが、なんとなく年寄りになってしまったと気分が落ち込んできます。気晴らしになる若々しい曲はないかと頭を巡らし、思いついたのはショパンのピアノ協奏曲でした。久しぶり、聴くのは20年ぶりくらいかもしれません。  ピアノ協奏曲はショパンが 20歳頃の作曲で、まだポーランドに居たころの曲です。さすがに情感が初々しく、こちらも若返った気になりました。音楽には気分を変える効果があるのを実感しました。音楽療法です。  気が軽くなって、次に取り出したのは、ビートルズの「1」というコンピレーション・アルバムでした。「We can work it out」が聴こえてきた頃には、20歳と同じ感覚になっていました。Life is very short,and there's no time・・・   あの頃は 75歳の自分の姿は想像できませんでした。今になって思うのは、確かに外見は著しく変化していても、案外、中身はそんなに変わったような気はしません。家内に尋ねてみると、おなじような気持ちだと言うので、みんなそんな風に思って生きているのかもしれません。ひょっとするとこれは誰もが陥る大きな”思い違い”なのか? 変わらないと感じることで自己同一性を保っているのか? とも思いますが、ここまで来ればあるがままに、Let it be で生きてゆく他ないでしょう。 #「音楽の可能性」https://otomoji-14.seesaa.net/article/2021-04-30.ht…

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カメムシとヒト

 今年はカメムシが大繁殖しているとニュースで聞きましたが、困ったことです。洗濯物に付いて、その臭いに居場所を探しまわったり、踏んづけて慌てたりするのはまだいいとして、柿などの作物に被害が出るのは大問題です。  そんなわけでもありませんが、高橋敬一『諸国カメムシ採集記』(ベレ出版)という本が出ていましたので取り寄せました。著者の高橋敬一さんにはある宴席でお目にかかったことがありました。『八重山列島昆虫記』(随想舎)、『昆虫にとってコンビニとは何か?』(朝日選書)といった多数の生物学的な面白い著書があります。その後、パラオへ行かれたという話を聞いていたのですが、どうされているのだろうと思っていたので、新刊書を見かけてすぐに注文しました。  表紙の袖には、< わたしは40歳にして突如、カメムシ採集人になりました。頭の中はもうカメムシのことでいっぱいです。/ ついこのあいだまで、カメムシのことなんか頭の中には1ミリもなかったのに! / この本は、わたしがカメムシ採集人だったころの、さまざまな思い出話を集めてできあがった一冊です。> とありました。  高橋敬一さんは1956年、東京生まれの農学博士です。カメムシは世界で約4万種、日本にはおよそ1500種が生息しているそうです。毎年、洗濯物に取り付いているのは、同じような顔付きで、同じ臭いなので数十種くらいかと思っっていましたが、まず、その種類の多さに驚きました。  そもそもカメムシはストローのような口で動物の体液を吸ったり、植物の…

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