冬の蕪村
大寒も過ぎましたが、秋と春が短くなって季節感が曖昧になってきました。『蕪村句集』*の「冬之部」を眺めて、与謝蕪村が捉えた冬を感じてみます。
たんぽゝのわすれ花あり路の霜
小春日和に咲いたタンポポの帰り花の黄色が、霜の白さに対比されています。ありふれた路傍の花ですが、不思議なことに「タンポポ」という言葉は江戸時代になって初めて出現したそうです。和歌にも見かけない花です。
磯ちどり足をぬらして遊びけり
千鳥の動きが目に見えるようで見事です。ただ、なぜ「千鳥」が冬の季語なのかは分かりにくい。 歳時記**によれば、紀貫之の「思ひかね妹(いも)がり行けば冬の夜の川風さむみ千鳥鳴くなり」などの和歌が『拾遺集』(巻四 冬)にあることから、千鳥は冬とされるようになったらしいとのことです。
こがらしや何に世わたる家五軒
木枯らしの吹く中に、家が五軒ほどかたまって見える。辺りに広い田畑もなさそうだが、何をして暮らしているのだろうと、思いやる気持ちが感じられます。「夏之部」には「五月雨(さみだれ)や大河を前に家二軒」というのがありました。
葱(ねぶか)買(かう)て枯木の中を帰りけり
冬枯れの木々の間にネギの緑が鮮やかです。これから帰って鍋にでもするかといった温かみが漂っています。わたしも子供の頃、「ねぶか」と言っていました。
斧(をの)入(いれ)て香(か)におどろくや冬こだち
葉を落として枯れたような冬の木立も、斧を入れると新鮮な木の香り…