春の蕪村
我が家の周りでも桜が咲き始めました。春本番といった感じです。わたしは3月始めから腰痛に悩まされ、あまり出歩けないので、『蕪村句集』*を取り出し、「春之部」を繰って、与謝蕪村の表現した春を楽しみました。
菜の花や鯨もよらず海暮(くれ)ぬ
菜の花と鯨の取り合わせとは、紀伊半島か外房のイメージなのでしょうか。太平洋を望む菜の花畑の夕景が鮮やかです。
うつゝなきつまみごゝろの胡蝶(こてふ)哉(かな)
飛び始めたモンシロチョウなのか、摘んでみたものの力の入れ具合がおぼつかなく儚げです。
旅人の鼻まだ寒し初ざくら
桜の咲き始めたごろの大気を捉えています。芥川龍之介の「水涕(みづばな)や鼻の先だけ暮れ残る」に影響しているかも知れません。
花に暮(くれ)て我家(わがいへ)遠き野道かな
桜を愛で、求めて歩いているうちに、つい遠くまで来てしまったという自嘲じみた感慨。桜ならではの春の一日。
はるさめや暮(くれ)なんとしてけふも有(あり)
うたゝ寝のさむれば春の日ぐれたり
遅き日のつもりて遠きむかしかな
日の永くなった春の一日、春雨が降ったり、ふと、うたた寝をしたり、こんなふうに日が過ぎてゆくのだなぁと、春の日暮れに思い出に耽ったりする。
けふのみの春をあるいて仕舞(しまひ)けり
行く春を惜しむように、今年の春を味わい尽くすように、歩き巡る。歳を取れば季節も一期一会と言えるかも知れませ…