鞍馬天狗のおじさん

  小学生のころ鞍馬天狗の映画を何回か観て、嵐寛寿郎という名前を覚えました。ピンチになると拳銃を撃ち、颯爽と馬で駆け、「日本の夜明けは近い」とのたまう。「鞍馬天狗」シリーズは全 40作もあったそうです。



 村の集会場で観た『明治天皇と日露大戦争』(1957)では明治天皇に扮して画面の中央にいました。「これは鞍馬天狗だ」と思った記憶があります。



 和田誠編『日本の名随筆 別巻63 芸談』(作品社)に竹中労著『聞書アラカン一代=鞍馬天狗のおじさんは』(白川書院)の抜粋が出ています。



 <「寛寿郎クン、明治天皇をやってほしい」。へえッ、乃木さんやおまへんのか! そらあきまへんな、〝不敬罪〟ですわ。右翼が殺しにきよります、ワテはご免をこうむりたい。「大丈夫や、ボクかて右翼やないか」と監督すずしい顔をしとる、体はこまいが肝ッ玉は太い。>



 <空前の大ヒット、封切りで八億円稼いだ。ワテ新橋の料亭に呼ばれた、「寛寿郎クン、ご苦労でした」と十万円。これボーナス、八億円稼いで十万円や。ゼニ残す人はちがいますな、アセモ代もろうて戻ってきた。宣伝部がまたきた、東劇で凱旋興行をやる。衣裳をつけて挨拶に出ろと社長がおっしゃっとる。ははーあの十万円、ギャラやったんかいな。すまんがそらお断りや、皇室を利用してゼニもうけてもかめへん。ワテの知ったこっちゃない、せやけどすこしは遠慮しなはれ、明治天皇サンドイッチマンにする了見か、それで沙汰やみ。>



 愉快な話の連続です。語り口のおもしろさに引き込まれます。映画での立ち姿や立ち廻りの鮮やかさとはまた違った、味わいがあります。晩年の「寅さん」映画での殿様役のアクの抜けた姿が思い出されます。



この記事へのコメント

  • センニン

    ご訪問 & nice! ありがとうございました。
    また遊びに来ます。
    2019年11月24日 20:28
  • そらへい

    私も親に連れられて『明治天皇と日露大戦争』見に行ったように思うのですが、兵隊さんが万歳をして次々に撃たれて死んでいく場面しか記憶がありません。
    2019年11月24日 21:16
  • 爛漫亭

    あの映画は村や町を巡回したのでしょうね。
    わたしは映画館ではなく、集会場で観ました。
    太平洋戦争の悔しさを晴らしたい気分が人々に
    充満していたのかもしれません。子供心には悲惨な
    場面が多かったですね。
    2019年11月24日 22:31