菜の花の夕ぐれながくなりにけり (長谷川素逝)
菜の花といえば黄色一面の風景を思い描きますが、金田一春彦*によれば、 < 秋田県・岩手県の境あたりに行くと、「菜の花がまっさおに咲いてうづぐすいなっス」など、土地の人が言うのを耳にする。> そうです。
< 昔、アオということばは今よりももっと広い意味に使われて青のほかに緑・黄なども含まれ、はっきりしない中途半端な色という意味を持っていたその名残り > なのだそうです。もちろん古い文章なので、今の人はそんな言い方はしないのでしょうが。
菜の花や月は東に日は西に (与謝蕪村)
なのはなや摩耶(まや)を下れば日のくるゝ (与謝蕪村)
季節的には、4月中旬ごろ、神戸の摩耶山から眺めれば、東の生駒山系の上に満月が昇り、瀬戸内海に夕日が沈むのが見はらせるかも知れません。江戸中期、摩耶山麓の灘付近は山からの水流を利用し、水車で菜種油を作る産地だったそうです**。
「月は東に日は西に」という句趣は、蕪村の愛読書であった陶淵明などに先例があり、漢詩を俳句に換骨奪胎した趣があるそうです**。
暮春となり、今日は下弦の月のようですが、あいにく雨模様で、月と落陽の位置関係は調べられそうにありません。
* 金田一春彦『ことばの歳時記』(新潮文庫)
** 藤田真一『蕪村』(岩波新書)

蕪村 (岩波新書) 作者: 藤田 真一 出版社: 岩波書店 メディア: 新書
この記事へのコメント
そらへい
菜種油を採取するためだったと思います。
いつの間にか、菜種も麦も栽培しなくなっていました。
鳥の名前や花の名前でも、アオと付いているのは緑などが多く
青色は瑠璃と名付けられていますね。
爛漫亭
ですね。子供の頃、「黄色い老犬」という
ディズニー映画を見ましたが、出てきたのは
普通の茶色い犬でした。黄色といえば、やっぱり
菜の花のような色を思い浮かべますね。
middrinn
「神戸の摩耶山」からの叙景・嘱目の詠だったんですね( ̄◇ ̄;)
爛漫亭
いわれていますが、『新潮日本古典集成
與謝蕪村集』(清水孝之校注)の頭注では
「淀川左岸の菜種作地帯の印象であろう。」と
なっています。説が分かれるところがあるの
かも知れません。
tai-yama
爛漫亭
「アオ」と呼んでも、どこが青なのか不思議です。