昨年末の毎日新聞の書評蘭、2024年「この3冊」にエマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)が取り上げられていました。このフランスの人口・家族人類学者の本は一昨年に『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』を読んで、家族制度から歴史を観るという視点が斬新で、読後には世界の見え方が一新された気がしました。
『西洋の敗北』は昨年11月に出版されたのですが、1月に米国トランプ大統領が就任し、矢継ぎ早に施策を発表する中で、日々、読んでいると、世界は E.トッドが書いている方向に進んでいるように思えてきます。彼はなぜ「西洋の敗北」が必然なのかを、各国の家族制度、人口動体、人口構成の変化、高等教育を受ける比率などの詳細な分析から導きだしています。そしてロシアは超音速ミサイルが開発できた時点で、ウクライナ侵攻を始めています。
かって米国はWASP(白人、アングロ=サクソン系、プロテスタント信者)を主流とする国でしたが、現在は異なります。オバマ大統領は黒人ですし、バイデンはアイルランド系でカトリック、大統領候補だったハリスはジャマイカ・インド系です。人口構成でもヒスパニック、アジア系、黒人の比率が増え WASPの比率は低下しています。つまり米国社会の基礎であった勤勉で敬虔なプロテスタント精神が衰微しているのです。西洋キリスト教国では本来、土葬だったのが、火葬の率が増えているように、宗教の形骸化が進んでいるそうです。
今や米国は「物」を生産する国ではなくなっており、「金」で金を産みだす金融資本主義・新自由主義社会になり、中産階級が薄くなり、社会が分断されています。わたし達が子供のころ観た米国のテレビや映画に溢れていた贅沢品や「物」は、現在は中国製、日本製などです。ミサイルの生産すら迅速にはできないと著者は書いています。買収で問題となった USスチールは世界の粗鋼生産量トップ20にも入っていません。米国の主要大学の科学技術系の学生数はアジア系の比率が高くなっています。
米国は先進国の中で唯一、平均余命が低下している国です。2021年の平均余命はアメリカ人は76.3歳、イギリス人80.7歳、フランス人82.3歳です。2020年、ロシアの平均余命は71.3歳ですが、2002年は65.1歳だったので、プーチン政権下で 6歳も余命が伸びています。アルコール依存症患者が減り、医療制度の指標である乳幼児死亡率がアメリカより低下しているそうです。ソ蓮崩壊後の混乱期とは全く違うのです。
ロシアは天然ガスが発掘され、石油と共に資源輸出国になり、ヨーロッパはロシアの天然ガスに依存してきました。西洋はロシアに経済制裁していますが、効果はありません。中国、インド、ブラジル、南アフリカ(BRICS)はロシアを非難していません。そしてこの間、エジプト、イラン、インドネシアなどBRICSに同調する国が増えています。
こんな調子でイギリスやフランス、ドイツの現状を分析し、ウクライナの過去と現在を詳述しています。この本を読むと、1989年のベルリンの壁崩壊は「自由と民主主義」の勝利の象徴と思っているうちに、ロシアは本来の父系制共同体家族の、「権威の下の平等」社会として立ち直り、西洋各国は内部から「国の形」が変質していったことが理解されます。今後の世界が各国の人口構成の変化などによって、どんなふうに変貌していくのか興味深いことです。
この記事へのコメント
mm
西洋の敗北、読んでみたいです。
そらへい
川の流れのごとく、いつの間にか世の中は変わっているのですね。私たちの身近な生活の中でも感じることはあるので、世界全体での流れ、動きと言うのは想像を絶するものがあるのかもしれません。盛者必衰はどこででもあることなんだと思います。
爛漫亭
トッドの指摘は目からウロコです。日本は父系制長子
相続だったので、権威の下、兄弟は不平等、つまり人は
不平等で、親分ー子分、兄貴ー弟分の関係の中で生きて
いるそうです。米日韓の関係にもそんな感覚が窺えますね。
爛漫亭
武器で自衛しているというトッドの指摘は鋭いですね。
アメリカが変質して、どうなるのか? 不安な面が
ありますね。
てんてん
今日も来ましたよ♪
tai-yama
インドもアフリカも想定ほど人口増加もなさそうと
言われていますし。どんなものでも増加には限度があると。
yoko-minato
これからアメリカはどう変貌していくのかと
大国であるアメリカは世界の中でも大きな存在です。
それが世界にどう影響するのでしょう!!
注視していきたいです。
ロシアの在り方と共に気になる事ばかりです。
でも戦争はやはり止めるべきです。
そら
世界の行く末が心配になりますね。
爛漫亭
爛漫亭
爛漫亭
爛漫亭