ミナミの雰囲気

 ふと、なぜか、以前にテレビで観た映画『夫婦善哉』で森繁久彌と淡島千景の掛け合いが面白かったのを思い出し、そういえば原作の織田作之助(1913-47)の小説は読んだことがなかったので、読んでみました。青空文庫にあるので手間はかかりません。  化粧品問屋の跡取り息子・柳吉と芸者・蝶子のやり取りが、大阪ミナミ、道頓堀や日本橋辺りを舞台にして語られます。ミナミの猥雑な雰囲気が生き生きと描かれ、ボンボン柳吉のイイカゲンさ、蝶子の逞しさが活写され、うまいなァ...と感心させられ、著者27歳の作と知ってまた驚きました。  映画では柳吉は森繁でしたが、これはやっぱり浪花の役者がいいなと思ったり、そうすると蝶子は誰がふさわしいか考えたり、話の展開を楽しみながら、あれこれ想像しました。(後に藤山寛美と野川由美子で作った映画もあったそうです。)  昔の小説には芸者さんがよく登場し、川端康成『雪国』とか永井荷風『腕くらべ』などが思い浮かびますが、これらはいわば関東風ですが、『夫婦善哉』には大阪ミナミの味が横溢しています。  テレビ・ドラマで 1980年代に『夢千代日記』というのがありました。山陰の温泉芸者たちのからむ人間模様で、見応えがありました。置屋の女将を吉永小百合が演じ、芸者は秋吉久美子、樹木希林などでした。 わたしが初めて芸者さんを見たのは子供の頃、昭和30年代ですが、兄たちの結婚披露宴が自宅であり、隣町から数人の芸者さんがよばれ、三味線や唄で座を賑わせていました。芸者といっても年…

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今年も「この3冊」

 年末恒例の毎日新聞、「この3冊」が2週にわたって掲載されました。毎週末の書評欄「今週の本棚」の書評担当者たちが、今年出版された本で、特に推薦したい本を、各自3冊ずつ短文を付けて挙げています。毎年、次年の読書の参考にしています。今年はそれで年初に、昨年に推薦されていたエマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)を読み、期待にたがわず興味深い内容でした。  今年はどんな本が出たのだろうと、楽しみに眺めたのですが、なかなか読んでみようという本に出会いません。宮本輝『潮音』(文藝春秋)は富山の薬売りに関わる歴史小説で、ちょっと食指が動いたのですが、全4巻もあるので、文庫本になってから考えようかとスルーしました。小説では他に、柴崎友香『帰れない探偵』(講談社)というのが複数の書評者に取り上げられていて目立ちました。紹介文を読んでみると、近未来小説という言葉がそれぞれに出てきます。あまり未来の残っていない者には関係がないか...とパスしました。  一方、わたしが今年読んだ本では、ちょうど今月読んだ鈴木俊貴『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)を政治学者の中島岳志さんが推薦し、また生命誌研究者の中村桂子さんが、8月に読んだ藤井一至『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)を選んでいました。  確かにどちらも面白くて、しかも身近な”鳥”や”土”に、知らなかった世界が広がっているのを気づかせてくれた楽しい本でした。こんな体験が出来るので読書は止められない、と今更ながら思わせてくれました。 …

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シジュウカラは言葉を使う

 この間から、『僕には鳥の言葉がわかる』(鈴木俊貴 小学館)という本を読みましたが、驚くような内容でした。著者は1983年東京生まれの生物学者ですが、”世界で初めて” 人間以外の動物(シジュウカラ)が言葉を喋っているのを発見し、実験的に証明した経緯を書いた内容でした。  アリストテレスの昔から、言葉を使うのは人間だけで、他の動物の鳴き声は感情表現に過ぎないと考えられてきたのですが、著者は、シジュウカラは200語ほどの言葉と文法を持っていると言います。とてつもない大発見です。軽井沢の森に入口が3cm位のシジュウカラ用の巣箱を掛け、録音機、撮影機器、マイクなどを設置し、何年にもわたって観察し続けた記録が分かりやすく楽しげに書かれています。  たとえば、子育て中の巣箱を観察していて、カラスが近づくと親鳥は「ピーツピ」と鳴くのに対し、ヘビが接近すると「ジャージャー」と鳴くのに気づきます。そしてヒナたちは「ピーツピ」の時は巣箱の奥で身を寄せてすくんでいるのですが、「ジャージャー」の時には巣立ちの2〜3日前でも、ヒナたちは次々に飛び出ていきます。  カラスに対しては巣箱の奥で身を潜めればカラスのクチバシは届きませんが、ヘビの時には飛び立つ必要があります。親鳥は鳴き声を使い分けているのです。  餌を見つけると「ヂヂヂ」と鳴き、他の鳥たちに伝えます。猛禽が現れると「ヒヒヒ」と鳴き、鳥たちは一斉に飛び去ります。また、日本のシジュウカラの声を録音して、フィンランドのシジュウカラに聞かせると、日…

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